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2006年2月

2006年2月26日 (日)

落語『トゥーランドット』

ある東洋の小さな島国にヨシワラという豪華なお城があり、そこに千早太夫という冷たく残虐な心を持つケイセー(注・東洋の姫君)が住んでいた。美しい姫の噂を聞きつけて全国からたくさんのサムライ(注・東洋の戦士階級)が彼女とソイトゲルためにやってきたが、千早太夫はそのサムライたちに三つの謎をかけ、答えられない者はすべて恥をそそぐためにセップク(注・東洋の自害の儀式)へと追い込まれた。

他のサムライと同じく千早太夫に憧れてやって来たオーゼキ(注・スモウトリと呼ばれる東洋の戦士階級の最高位から2番目)の竜田川は《Q1 たどんの上下 Q2 薬缶の由来 Q3 千早太夫の本名》という3つの難問を見事に解き明かし彼女に求婚する。しかし千早太夫は「それだけでは私の寝所と私の心を奪ったことにはならない」と竜田川の求愛を拒む。そこで竜田川は「私が毎晩眠る寝床はどこにありますか?明日までにそれに答えられれば私はあなたをあきらめて田舎に帰ってトーフヤ(注・東洋の食料品店)になります。もし答えられなければあなたは私のものです」と持ちかけた。

深夜の街角で「誰も寝てはならぬ」と大声で姫への愛をギダユー(注・東洋の音曲)に込めて歌う竜田川、寝床の場所を知っているはずだと詰問した奴隷女の神代が竜田川への愛のために自害したのを見て氷のように冷たい心を動かされる千早太夫、「実家のトーフは美味いんだけどねぇ」と言いつつ竜田川のギダユーが頭の上を通り過ぎるのをひたすら待つ町の人々。

そして夜明けのヨシワラ。お供を連れて姿をあらわした千早太夫は声高らかに宣言する。「寝床の場所はわかった…それは彼と私の愛の巣!」。
民衆の「おあとがよろしいようで」(注・東洋のハッピーエンド)という歓呼の声とともに幕が下りる。


(古賀)

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2006年2月24日 (金)

落語『三派系長屋』

ある三軒長屋の端の家に中核派、もう片方の端に革マル派がアジトを作っていさかいがたえない。
真ん中に住んでいる伊勢屋の大旦那のお妾さんが、とうとう連日の大騒ぎに我慢できなくなりどんな手を使ってもいいからどちらかの家を立ち退かせて静かに暮らせるようにしてくれと旦那に頼み込んだ。

それをどこかから聞きつけた中核派と革マル派、両者とも順ぐりに大旦那のところにやって来て「どうやらこのセクトも内ゲバが絶えなくなってきたので思想的に転向してここを出ていきたいと思いますが、手元に蓄えもなく引越し料が工面できません」と告げる。喜んだ大旦那は双方に転向料として50両ずつ手渡した。金を受け取ってすぐ帰ろうとする革マル派に大旦那「さっき来た中核派さんも転向すると言っていたが、一体転向して天皇主義者にでもなるつもりなのか」
「へえ、中核派さんが革マル派に転向してあっしらのアジトに越してきて、あっしら革マル派は中核派さんのところに転向します」


(古賀)

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2006年2月18日 (土)

落語『がまの油』無頼若薬師(ぶらいじゃくくすし)の巻

「こんな重傷の患者でも、おどろくことはない。さ、このとおり、がまの油をひとつけつければ、痛みが去って、血がぴたりと……とまらないな…うん、ひとつけでいけないときは、ふたつけつける。こうつければ、こんどはぴたりと……あれっ、まだとまらないな…かくなる上はしかたがないから、またつける。まだ、とまらないな。とまらなければ、いくらでもこうつける。こんどこそ、血がぴたりと……あれ、止まらないぞ。お立会い」
「ひとつけふたつけって言っているあいだに、ぜんぶつけちまったじゃねえか。大量の出血で今にも死にそうなこの患者を一体どうするつもりだ?」
「お立会いのうちに、無免許の天才外科医はないか?」


(古賀)

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2006年2月17日 (金)

落語『心に残る聖書の言葉3』

死者の中から復活したイエス様と疑い深い弟子のトマスの対話。

「さあ、わたしの手の釘の跡を見、あなたの指をそこに入れてみなさい。信じない者ではなく、信じる者になりなさい」
「へーえ、大きな釘で……お宅ではそこにほうきをかけるんですか?」

ヨハネによる福音書


(古賀)

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2006年2月16日 (木)

落語『心に残る聖書の言葉2』

人類の罪のために十字架にかけられたイエス様の最後の言葉。

「あいたたた、血がだくだくと出たつもり」 マタイによる福音書
「お立会いの中に血止め薬の持ち合わせはないか?」 マルコによる福音書
「あァ、消える、消える……」 ルカによる福音書
「だから……死ぬなら今」 ヨハネによる福音書


「覚悟完了!」 ペテロによる福音書(新約外典)


(古賀)

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2006年2月15日 (水)

落語『心に残る聖書の言葉』

「こうして、指と指がさわって……かみさんの顔をじいっと見ると、これがふるいつきたくなるような……いい女……じゃねえ……あーあ、おれは長命だ」(メトセラ)

創世記第5章27節より


(古賀)

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2006年2月11日 (土)

落語『二十四孝』土の巻

「なあ、婆さん、おめえ鯉を食わねえか?」
「いやだよ。あたしゃ川魚は嫌いなんだよ」
「鯉が駄目なら、ラゴンやマンモスフラワーはどうだ?」
「余計いやだよ」
「しょうがねえな、これじゃ親孝行ができゃあしねえ。どうしたら?……ああ、いいこと思いついた。おっかあ、子供をつれてこい」
「どうするんだい?うちに子供なんかいやあしないよ」
「じゃあ隣の子を借りてこい」
「隣の子をどうするのさ?」
「土の中に生き埋めにするんだ。心配するな。天の感ずるところだからすぐカネゴンになる」

あなたの隣の人。その人も天の感ずるところの親孝行者なのかもしれませんよ……。


(古賀)

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2006年2月10日 (金)

落語『二十四孝』金の巻

「このほかに郭巨という人がいた。例によってオプションでばばあがくっついていたがそれにさらに女房と子供がいたため前の二人に輪をかけた貧乏だ。おっかさんに食べさせてやろうとすると子供に食べさせることができない、子供に食べさせてやろうとするとおっかさんに食べさせることができない、それぐらい貧乏なので、夫婦相談の上、母へ十分孝行をつくすためにはしかたがない、ふびんではあるがってんで、子供を生き埋めにしようということになった」
「ひどいことするねえ」
「まあ、待て。おれもはじめはそう思った。しかし昔の唐土のことだから、もうすでにこんな場合は天が感ずるものだというマニュアルができあがってるから安心なんだ……山へ連れていって、子供を埋めようとして天を仰いではらはらと落涙すると、案の定足の下の土がこんもりと盛りあがった。待ってましたとばかりに郭巨がそれを鍬で払いのけると、『天、郭巨に与うるものなり、他の者これをむさぼるなかれ』と書かれた不思議な繭があらわれた。繭を割ると中から出てきたのは金のカネゴンだ」
「……………………何で昔の唐土なのにそんなものばかり出てくるんだ?」
「そのへんは天の趣味が偏っているからだと思うが良くはわからねえ。郭巨はそのカネゴンを金の釜と偽ってお上へ届け、ご褒美をもらい大金持ちになった」
「偽ってばかりだな。そんな孝行者ばかりで何だか話にちっとも説得力がねえ」
「説得されなくてもいいから、とにかく親孝行をしろ」
「うーん」
「首をひねりながら帰っちまいやがった……しょうがねえ。俺の方もさっそく親孝行にとりかかるとしようか」
土の巻へ続く


(古賀)

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2006年2月 9日 (木)

落語『二十四孝』木の巻

「昔唐土に孟宗という人がいた。例によってこいつが大の親孝行なんだが、寒中にこいつのおっかさんが筍が食べてえとかくだらねえことを言い出した。孟宗は人がいいからこんなばばあはとても面倒見切れねえから絞め殺そうとかは別段思わず、鍬を持って東京のビル街に出かけた。アスファルトを掘り返してあちこち探してみたがどうしても筍が見つからない」
「……………………なぜ東京のビル街に?」
「これでは母に孝を尽くすことができないと天を仰いではらはらと落涙におよぶと、足もとのアスファルトがこんもり高くなった。そこを鍬で払いのけると、古代の地球上に栄えた巨大な吸血樹木が生えてきたので、これを料理して筍と偽っておっかさんに食わせた。そのため東京都心部は破壊されてしまったが親に孝を尽くすことはできたから良かったってえ話だ」
「いいのかよ。吸血植物なんか騙して食わせても……」
「いいんだよ。二千年前のハスの種が花を咲かせたってえ実例もあらあ」
「何だかわからねえ」
「わからなくてもいいんだ。これが天の感ずるところだ」
金の巻へ続く


(古賀)

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2006年2月 8日 (水)

落語『二十四孝』水の巻

これからあなたの目はあなたの体を離れて、諸般の事情により字数制限と行数制限のあるこの不思議な親孝行の世界へと入っていくのです……。

「全く、お前という奴は親不孝な奴だ。やい、てめえは親不孝だぞ」
「何でえ、薮から棒に……、お前がさっき長屋のご隠居に『親孝行しろ』と説教されて、それを今度はうけ売りで俺に聞かしてやろうとしているところだとかそういうような今までの経緯の説明はねえのか」
「ないんだよ、今回は。諸般の事情により字数制限があるんだから……どうもおめえのような親不孝な者はいねえ。五合のひょうたんのようなやつだ。孝はひょっとこの元でこうこうの漬かる時分になすはなくて南瓜は生では食われねえ。おまえのうちでも何でもかまわねえからすぐに店をあけろっ」
「またずいぶんと豪快にはしょりやがったな……」
「いいんだよ、諸般の事情により字数制限があるんだから……中国に『二十四Q』という話がある」
「あれ、『二十四孝』の間違いじゃねえのか?」
「いいから黙って聞け。諸般の事情により行数制限もあるんだから……昔唐土に王祥という人がいた。この人の家はいたって貧乏だが、寝たきりの重病のおっ母さんが鯉が食べてえとかぬかしやがる。唐土ではばばあの食い気と貧乏はぜんぶつながってるんだ……そこでいたって親孝行の王祥は鍬を持って近くの海まで鯉を探しに行ったんだが、どうしても鯉は見つからねえ」
「あたりめえだ。あれは川魚だ。それに鍬を持って行ってどうする」
「そこで王祥がこれでは母に孝行を尽くすことができないと天を仰いでさめざめと泣いていると、乗っている船の下の水面が急にこんもりと高くなった。海底火山の噴火かなと思いそこを鍬で払いのけると、出てきたのが海底原人ラゴンの卵だ」
「……………………なんだって?」
「家に帰った王祥が卵から孵ったラゴンの赤ん坊を鯉と偽ってばばあに食わすと、ばばあの病気はみるみるなおってしまった」
「おかしいじゃねえか。なんで鯉のかわりにラゴンなんかを食べて病気がなおるんだ?」
「親不孝のおめえにはわからねえかも知れねえが、そこが天の感ずるところだ。唐土じゃあばばあの食い気と貧乏と天の感ずるところとアンバランスゾーンはぜんぶつながってるんだ。覚えとけい」
木の巻へ続く


(古賀)

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2006年2月 5日 (日)

落語『まんじゅうこわい』後編

「どうだ。みんなこっちへよれよ。おかしなやつがいるじゃねえか、巨大なまんじゅうがこわいだってやがらあ……ところで、それについて相談だがひとつあいつをおどかしてやろうじゃねえか。さっきもさんざんくそいばりにいばったりしてしゃくにさわるから……どうだい、みんなで銭をだして、モルフォ蝶とまんじゅうを買って、鱗粉をかけて大きくして、あいつの寝ている枕もとへ置いておいて、野郎をおこしてこわがらせるというのはどうだい?」
「そいつはいい…さあ、買ってきたぞ、まんじゅうとモルフォ蝶。準備ができたら野郎を起こすんだ」
「……あーあ、よく寝ちまった。このところ寝不足がつづいたものだから、横になったとたんに寝こんじまって……あーっ!まんじゅう!巨大なまんじゅうだ!たいへんだ、たいへんだ!たすけてくれ!」
「しめしめ、熊のやつ、まんじゅうをみてふるえてやがらあ」
「ああ、たいへんだ。おれがあれほどこわいこわいというまんじゅうが、こんなに巨大化して枕もとにあるなんて…ああ、こわい、こわい……巨大化しているからいくら食べても皮ばかりでなかなか餡までたどりつかないから怖い……」
「おい、待てよ。様子が変だ…あいつ、こわいこわいと言いながら、ものすごい勢いでまんじゅうを端からたいらげていくぞ…これは一杯食っちまった。いや、食っちまったじゃねえ……食われちまった」
「ふう、まだまんじゅうは大量に残っているのに腹がぱんぱんでもう一口も食べられねえ。どこかに胃の中のどんな物体でも一瞬にして消化してくれる液体があればなあ」
「あんなこと言ってやがる…やい、てめえがほんとうにこわいのはいったいなんなんだ?」
「えへへ、このへんで何でも消してしまうケムール人の消却液が一ぱいこわい」


(古賀)

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2006年2月 4日 (土)

落語『まんじゅうこわい』前編

これから30分、あなたの目はあなたの体を離れて、この不思議な世界へと入っていくのです……。

「みんなそろったかい」
「そろったようだ」
「みんなを呼んだのはほかでもねえ。今日はみんなでお茶でも飲みながら自分のこわいものの話でもしようっていう趣向なんだ」
「なんでえ、こわいものの話か。色っぽくねえな」
「そういう留公は何がこわいんだ?」
「おれか、おれは……巨大な猿がこわい」
「巨大な猿?」
「そう、猿がヘリプロン結晶Gを食べて、甲状腺に異常をきたして、巨猿になったらと思うと、もうそれだけでぞっとすらあ」
「やけに設定のこまかい怖さだなあ」
「もう、猿だけでなく巨大なバナナを見ただけで足が前へでないくらい怖い」
「おふくろの話だと、なんでも胞衣を埋めたところを、いちばんさきに通ったものが虫が好かねえそうだ。だから、きっと留公の胞衣を埋めた上を巨大な猿が通ったんだな」
「いや、猿だけじゃねえ。巨大なペンギンも通った。巨大なカメも通った。巨大なモグラも通った。巨大なクモも通った。巨大なタコも通った。巨大なナメクジも通った」
「ずいぶん通ったねえ…アンバランスゾーンみたいなところに埋まってる胞衣だな」
「もう動物が巨大化するというシチュエーションを想像するだけでだめで、だからいまだに放射能のあるプルトニウムは食べられねえ」
「普通食べられねえよ、そんなものは…そのとなりの金ちゃんはなにがこわい?」
「おれは風船だ」
「風船?そんなものが怖いのか?」
「もう、朝起きたら空に輝いているのが太陽じゃなくて巨大な風船だったらと思うだけでぞっとする」
「変なものをこわがるやつもあるもんだ…熊さんはなにがこわい?」
「なにをぬかしやがるんだ、この人工生命M1号めら」
「これはおそれいった。M1号めらはひどいね」
「さっきからだまってきいてりゃだらしがねえじゃねえか。人間は万物の霊長といって、いちばんえれえんだぞ。それがなんだってんだ。猿がこわい、ペンギンがこわい、モグラがこわい、ナメクジがこわいだってやがら……人間やめてセミ人間になっちまえ。巨大ナメクジなんか頭から塩をかけてがりがりと食っちまわあ。ペンギンは頭からペギミンHをふりかけてがりがりと食っちまう。もっとも体が反重力で浮かび上がって少し食いにくいが…」
「威勢がいいねえ。でもおまえにはほんとうにこわいものはないのかい?」
「うん…じつは一つある」
「それはなんでえ」
「じつはね、おれは巨大なまんじゅうがこわい」
「巨大なまんじゅう?」
「アマゾンにモルフォ蝶というなんでも巨大化させる鱗粉をまく蝶がいるんだ。その蝶の鱗粉がかかってまんじゅうがとても食べきれないくらい巨大化するのを考えただけで、ぞーっとなってふるえがとまらない……ああ、想像しただけでもうだめだ。すまねえが奥の部屋で一やすみさせてもらうよ」
以下後編


(古賀)

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2006年2月 3日 (金)

落語『粗忽館の殺人』後編

「おい、あけねえか。熊、熊、熊!おーい」
「なんでえ、八の兄貴。血相を変えて……なんかあったのか?」
「ちくしょうめ。てめえはのんきに青柳ういろうなんか食っている場合じゃねえぞ……おめえはな、さっき絶海の孤島にある粗忽館で密室殺人されて……死んでるんだ」
「おい、よせやい。今どきクローズドサークルで密室殺人かい。おれはそんなとってつけたような状況で殺害されたような心持ちがしねえ」
「それがおめえはずうずうしいってんだ。はじめて密室殺人されたのに、どんな気がするかそうそうすぐにはわかるものか。連続して密室殺人に出くわす探偵役はいても、連続して密室殺人に出くわす被害者はあまりいねえ」
「そう言われりゃそうだ」
「おめえはそそっかしいから、悪魔の如き狡知に満ちた犯人のトリックにかかって密室殺人されたのにも全く気がつかずに、ここまで帰ってきちまったんだ。そう、たぶん犯人は催眠術で死んだお前に暗示をかけて記憶を操作し、そのまま生きていると思いこませたに違いねえ」
「死人に催眠術ってかけられるのかなあ……それに、軽はずみに催眠術なんか使う奴は二流に違いねえよ、兄貴」
「この野郎、どこかで聞いたふうなことを言うな。いいからいっしょに来るんだ」
「どこに?」
「お前が密室殺人された部屋だよ。そこでまずおれが悪魔の如き狡知に満ちた犯人のトリックを見事解き明かし、そしてお前が自分を密室殺人した犯人をズバリ指摘するんだ」
「そんな兄貴、いまさら『おまえがおれを密室殺人した真犯人だ』なんて、じぶんでいうのはどうもきまりがわるくってならねえや」
「ばかいうな。当人がいって当人を密室殺人した犯人を指摘するのに何の遠慮がいるもんか。え、そうだろう。おまえだって一人前の密室殺人事件の死体だ。だまってちゃいけねえよ。さあ、いっしょにこい………あ、どうも、さきほどは……」
「あ、またきたよ、この人は」
「いえね。このことを当人にはなしますと、おれはどうもクローズドサークルで密室殺人されたような心持ちがしねえなんて強情はってるんで……でも、おれがだんだんと話して聞かせますと、ついにこいつも観念して私が密室殺人事件の被害者ですと自白しました。謎はすべて解けた」
「どうもすみませんです。ちっとも知らなかったんですが、あたしは悪魔の如き狡知に満ちた犯人の空前絶後のトリックにかかってここで密室殺人されちまったそうで……」
「おいおい、困るな。おんなじような人がもうひとりふえちまって……なんてばかばかしいんだい。あのね、あなた、もう事件は解決しちまったんだ」
「えっ?」
「この部屋の鍵を持ってる男がもう一人いて、そいつがあたしが殺ったと白状したんだ」
「そんな、鍵って……この部屋は密室だって言ったじゃないですか」
「いや、あたしは一度だってこの部屋が密室だとは言わなかったよ」
「だって、密室殺人って……」
「そうだよ。殺されたこの人の苗字が密室さんだったんだ。それで密室殺人ってわけだ」
「そんな。じゃあなんでおれが『熊の野郎だ』って言った時否定しなかったんだ?」
「名前が熊だと思ったからだ。みんな苗字は知っていたが名前は知らなかった」
「しまった、叙述トリックだったのか。そうするとこの殺人事件には不思議なことなど何もなかったてわけか」
「でも八の兄貴、おれにはひとつ不思議なことがあるんだ」
「なにが?」
「完全に外界との交通が遮断された絶海の孤島にある粗忽館から東京の粗忽長屋にいるこのおれに兄貴は一体どうやって会いに来てどうやって連れ戻ったんだ?」

これは、それだけの話なのである。
だから――怒らないで貰いたい。


(古賀)

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2006年2月 2日 (木)

落語『粗忽館の殺人』前編

絶海の孤島にある粗忽館に招かれた人々を巻き込む奇怪な事件――と思って戴きたい。

「なんです?おおぜい立って……なんかあったんですか?この部屋の中で……」
「ええ、密室殺人だそうですよ」
「なるほど、密室殺人……これからはじまるんですか?」
「なんだい、わからない人がでてきたなあ……まあ、いいから、こっちへいらっしゃい」
「ははあ、こんなところで、頭から血を流して寝てらあ……おい、みんなみてるじゃねえか。起きたらどうだい」
「起きやしないよ。これは寝てるんじゃないんだよ。死体なんだよ……殺されてるんだから」
「ははあ、まるで殺人事件みたいだ」
「だからさっきから密室殺人だって言ってるじゃないか」
「この野郎、密室殺人なんかされてきまりが悪いんだな。むこうむいて死んでるじゃねえか」
「そういうわけじゃないよ。まあ、知ったかたかどうか顔を見てごらんよ」
「密室殺人死体なんかに知り合いは……ああ、これは熊の野郎だ!」
「熊の野郎だなんていうからには知ってるんだな」
「知ってるもいいとこだよ。こいつと俺とは一心同体も同然なんだ。生まれたときは別々だが死ぬときはバラバラ死体と誓いあった仲だ」
「いやな誓いだな」
「だれがこんな目にあわせたんだ。おめえか」
「じょうだんいっちゃいけない。それを今からみんなで考えようってんだ……おまえさんも一心同体も同然の仲なら誰が犯人か推理しておくれ。なにしろこの粗忽館のある粗忽島は完全に外界との交通が遮断された絶海の孤島で、定期船は5日後だし、通信手段が全く使用不能だから警察に連絡もできないんだ」
「じゃあね、こうしましょう。ここに当人を連れてきますから」
「なんだい、その当人というのは?」
「ですから、密室殺人された当人を……」
「おい、しっかりしなさいよ」
「しっかりするもなにもありゃしねえ。密室殺人の当人ならきっと犯人もわかるはずですからこれならまちがいないなってことがわかったら、みんなだって安心でしょう」
「おい、おまちよ。なんだい、あの人は……とうとういっちまった……当人をつれてくるったって、当人はここで死んでるんじゃないか」
以下後編


(古賀)

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