「うちの長屋も貧乏長屋なんていわれてるんじゃ景気がわるくってしかたがねえ。そこでひとつ酒、さかなを持って陽気に花見にでもでかけようとおもうんだが、どうだ?」
「酒、さかなですか…どっかへいってパクって、もとい無断引用してきますか?」
「人聞きの悪いことをいっちゃいけねえよ。そのほうはおれが用意しといたから。そこにある重箱のふたをとってみな」
「ふたをとってと……やあ中身は売れ残った『血で描く』だ」
「そうだ。卵焼きは黄色く塗ってある『血で描く』、かまぼこは月型に切ってある『血で描く』、酒は切り刻んで徳利に入れてある『血で描く』だ」
「こりゃあ驚いた。俺たちゃ山羊じゃねえんだ。いくらなんでもこんなものをがぶがぶのぼりぼりできるか。猫の死んだのを捨てに行く方がまだましだ」
「そんなことを言わずにせっかく花見に来たんだからみんな遠慮なしにどんどんやっとくれ。幹事はぼんやりしていないで、どんどん酌をしてまわっておくれ」
「じゃあ留さんいっぱいいこう」
「いや、遠慮しとこう。この酒を普通の酒みたいに飲むのは命がけだ。きっと飲んでる途中で行方不明になるか、悲惨な死に方をする…」
「おい、怪奇小説の帯の文句みたいなことを言ってことわるなよ。みんな飲んだんじゃねえか。おめえひとりのがれるこたあできねえんだよ。これもすべて社会が悪い、他人が悪いとあきらめて、世の中を呪いながら一杯いけ」
「おい、変なすすめかたするない。どうも場が盛り上がらなくていけねえ。そうだ、六さん、おまえさん、俳句をやってるそうだな。どうだ、花見にきたような句をよんでくれねえか」
「そうですねえ。どうです、『花散りて世の中を呪う命かな』」
「なんだかさびしいな、ほかには?」
「そうですか、では、『血で描いてなむあみだぶつというべかな』」
「なお陰気になっちまうよ」
「なにしろ小説本をがぶがぶのぼりぼりじゃ陽気な句もできませんから」
(参考:講談社文庫『古典落語・上』興津要編)
【関連情報】
『唐沢俊一』(Wikipedia)
落語のあらすじ 千字寄席 『長屋の花見』
(古賀)
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