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2008年7月17日 (木)

落語「やかん指南」後編

「じつは、わたくし笛育長屋の若い者でございますが、ひとつ知ったかぶりの稽古をしていただきたいと思いまいりました」
「わかりました、どうぞこちらへ…そちらの方は?」
「へえ、この野郎は稽古をしないんで。稽古をお願いするのはわたくしだけです」
「では、お連れさんはそちらで少々お待ちくださいまし……ところで今日はどういう知ったかぶりを稽古なさいます?」
「どういう知ったかぶり?知ったかぶりにもいろんなのがあるのでしょうか?」
「そりゃあございますよ。掲示板での知ったかぶり、ブログでの知ったかぶり、mixi日記での知ったかぶり、チャットでの知ったかぶり、本を書いての知ったかぶり、テレビに出演しての知ったかぶり、講演での知ったかぶり、給湯室の噂話での知ったかぶり、いろいろなレベルの知ったかぶりがございますが、どういう知ったかぶりを稽古なさいますか」
「なにぶん初めてなもので…ここはなるべくやさしいのをお願いします」
「それでは、知ったかぶりの中でも基本中の基本、やかんについての知ったかぶりをまずお教えいたしましょう」
「へえ、どうかここはひとつ、そのやかんについての知ったかぶりを」
「まずやかんのことは昔はやかんと言わず、水わかしと言っておりました。法律上の正式名は『純正熱気水沸器具』」
「なるほど」
「19世紀になって、当時のイギリス貴族のヤカン伯爵(第4代ヤカン伯ジョン・モンタギュー)という人が、ワーテルローの戦いで突然フランス軍が夜討ちをかけてきた際にいくら兜を探しても見つからなくて困ったような場合に兜の代用品になるようにと考え、金属の水わかしを考案しました。これがやがてやかんと呼ばれるようになりました」
「へえ。じゃあそれまでは金属の水わかしじゃなかったんですか?」
「そう。ふだんかぶる布の帽子に水を入れてそのまま水をわかしていたのですが、これではどうもよろしくない」
「なぜですか」
「考えてごらんなさい。金属の水わかしだからこそ、これを兜のかわりにかぶって出陣した若武者にみんなで矢を射かけてもびくともせず、矢がカーン、矢がカーン、矢がカーンのヤカンということで一条の物語になる。布の帽子では矢を射かけると、矢がグサー、矢がグサー、矢がグサーのヤグサで、全身矢が刺さったまま立ち往生したヤクザ者の由来にはなっても、やかんの由来にはならない」
「なるほど」
「それに熱いのを我慢してかぶっていたらすっかり毛が抜けたというやかん頭の由来を語るのにも無理がある」
「わかりました。今のがやかんについての知ったかぶりというわけですね」

そういうやりとりを横で聞いていた連れの男。
「けっ、なにを言ってやんでえ。どうもあきれたもんだ。教わるやつも教わるやつだが、教えるやつも教えるやつだ。今のがやかんの由来だと?馬鹿馬鹿しい。今のはどう聞いてもサンドイッチの由来じゃないか。本当は昔はゴム製のコンドームがなかったから、鉄兜や金属の水わかしをかぶせて避妊具代わりにして野外で性行為を行ったことに由来するってえ話じゃねえか。野外での姦淫、野外姦淫、野姦、野姦、野姦、のやかんだ。うろ覚えだが間違いねえ」
「ああ、あのお連れの方は器用だ。見ていておぼえた」
(参考:ちくま文庫『落語百選・夏』朝生芳伸編、講談社文庫『古典落語・下』興津要編)

【関連情報】

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(古賀)

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